月山

「では!向こうでは
 きもだめし、キャンプファイヤー、ハイキング、お菓子作り
 をするということで。
 よろしいですわね。
 班から班長を選んでそこから色々きめてください。
 班ごとに話し合いをしてください。」


その1週間後
美空小6年生は「桜山」に行った。

「うわぁ…桜がさいてる…。」
「おかしいなぁ。
 いつもより…桜が早すぎる。
 何かあったのだろうか?
 ゆき先生?」
「ふふ。きっと私たちを迎えてくださってるんですよ。
 春風さん。
 あそこみてみなさい。」
「え?」
桜の木の間に
ふわりと長い髪がみえた。

「あ!どれみ~!!!!」
「は、ハナちゃん!どうしてここに!?」
「へへ。女王様がいいっていってくれたの。
 やっぱりみんなそろった方がいいでしょ?
 まあ、その許可が下りるまで1週間かかっちゃったけどね。」
「どれみちゃん、あなたは私たちのために
 たくさんのことしてくれたからその御礼よ。
 それにハナちゃんも美空小の一員だからね。」

ゆき先生がウインクしながら小声で話した。

「女王様…いえ、ゆき先生、ありがとうございます。」
「では、春風さん、巻機山さん、楽しんでいらっしゃい。」
「はい!みんな~!
 ハナちゃんがかえってきたよ~!」

桜の舞う中
巻機山はみんなと再会をはたした。

「でも…歓迎してくれてある程度
 早く咲くのはわかるけど…
 魔法もつかっていないのに
 なぜこんなに全部の桜が早く咲くのでしょう…。」
ゆき先生は不思議そうに桜の木をながめていた。


「キャンプファイヤー!
 Let's singing a song!」

着いたその夜
盛大なキャンプファイヤーが行われていた。
みんな楽しんでいた。
どじみは最後の思い出とばかりに
その楽しみをかみしめていた。

『どれみ…』
「え?…」
ふりかえると…誰もいない。
『こっちだよ…』
「え?どこ?ちょっとまってよ…。」

声のするほうに追いかけていく。
俺はそんなどじみの様子がおかしいと思い
後をそおっとついていった。
「どこ?」
『どれみ…』

月をバックに大きな桜の木があった。
その下に少年が見えた。


「だれ…?」

『どれみ…。』
「あなたは誰?
 どうしてあたしの名前…。」
『君の寂しそうな表情をずっとみてたんだ。
 僕も寂しくて…君なら僕の寂しさをわかってくれるって…。』

少年がこちらを振り向いた。
桜がざわめく。
色の白い今までみたこともないくらい
美しい少年だった。
さすがのどじみも息をのむほど見とれてしまう。
俺もこっそり木の陰からみていた。

『僕の名前は…桜山月人。
 友達がいなくて…寂しくて…。』
「じゃあ、これであたしたちともだちだね、月人君。
 あたし、春風どれみ。
 よろしくね。」
どじみはにこってわらって手をだした。
月人という少年は
その手を自分の方にぐいと引き寄せ
どじみを抱きしめた。

「…え!?」
どじみは顔を赤くして混乱した。
「なっ…!!」
俺は怒っておもわず声が出てしまった。

『どれみは髪の毛を下ろした方がかわいいよ。
 僕がほどいてあげる…。』
どじみの髪にそっとふれただけで
リボンがほどけ
どじみの髪がばさっと肩に落ちてきた。
『やっぱり…きれいだ…。』
「月人君…。」
『どれみ…一緒に月見桜をしよう…。
 こっちに…。』

「待てよ!」
俺はたまらず声をかけた。
「小竹!どうしたの?」
「お前…何者だ!
 どれみを連れて行くな。
 戻れなくなる。」
『今日はだめだね…。
 じゃあ、また明日ここで待ってるよ、どれみ。
 月見桜をしよう…。』
「待って!月人君。」

サァッ…

目の前に桜吹雪がきて
思わず目を覆う。

すると月人は消えていた。

「どれみ大丈夫か?」
「小竹…どうしてあんな風にいったの?
 月人君は寂しいんだよ。」
「あいつ…おかしいだろ?
 桜はあっちにはないのに…お前を連れて行こうとしてて…。」
「でも…だからってあんな言い方…。」
「へ!お前あいつのこと好きなんだろう?
 いつもそうだよな。
 お世辞に過ぎないのに
 かわいいっていわれてその気になりやがって…
 あんな妖しい奴に…。」
「そうだよ!好きだよ!
 あんたなんかとちがってやさしいし、かっこいいもん!
 あたしをかわいいっていってくれるし!」
「お前なぁ!そういってくる奴にならだれにでもついていくのかよ!
 まあ、お前みたいなどじな奴についてこられたら
 迷惑だろうしな…。」

ぱしんっ!

どじみの平手が俺の頬をたたいた。
「小竹なんて…大嫌い!」
どじみはそういうと走っていった。

はっと俺は我にかえる。
どじみを心配して言ってたのに
次第にどじみの言葉に
月人に…やきもち焼いて
どじみにあたってしまった。

「どれみ…。俺は…なんてことを。」

「どれみ…その髪…ないてるの?」
みんなの元に戻ると巻畑山がいち早くどれみにきづいた。
「ハナちゃん…ううん、なんでもない…。」
目をこすりどれみはにこっと笑った。「どれみ髪をおろしてると綺麗!
 そのまんまでいてよ!」
「ありがとう、ハナちゃん。
 じゃあ、このままでいようかな?」
「どれみちゃん綺麗!」
「綺麗だね!」

髪を下ろしたどれみがみんなに好評で
話題の中心になった。
俺は遠くから見守っているしかなかった。


「ええと、お菓子作りは
 ダッチオーブンがあるのでこれでできる焼き菓子をつくります。」

次の日のお菓子作りは飛鳥が中心となり始まった。

こんな時に限って俺はどれみと組むことになった。

「髪…結んだ方が…。」
俺はためらいがちにどれみが行ってしまった後に残っていたリボンを渡した。

「あ…ありがと…。」
「その!…怒らせて…悪かった…。」
仲が悪くなるのは耐え切れない。
俺の手からどれみがりぼんをとった瞬間
俺は素直に謝ることにした。

「ううん、小竹心配してくれたんでしょ?」
「え?」
「わかってるって。ありがとう、ごめんね。」
そういってどれみは飛鳥のもとに走っていった。

「わかってるって…
 俺の何がわかってるんだよ…。」

俺はどれみの言葉に照れたが…
それと同時にむなしさが胸に渦巻いていた。

「おい。」
その声にはっとした。
目の前には矢田と長谷部が立っていた。

「お前…大変だよな…。
 春風…まったくきづいてないぞ。」
矢田はあきれた様子でいう。
「ああ…わかってるさ。
 だからこの旅行で…いうつもりだ。」
俺は決意を2人に伝えた。

「…そうか。
 お互い…幼なじみには苦労するな…。」
長谷部が肩をぽんとたたいていう。
「お前…本当に言えるのか?」
心配そうに矢田が聞く。
「ああ。
 俺はお前らと違ってはっきりさせたいし。
 お前らまだ藤原や工藤にいってないんだろ?」
「「なっ!?小竹!!」」

2人が顔を真っ赤にして俺を追い掛け回した。

「まさる君達なにしてるのかしら?」
「何だかんだいって、あの2人って仲がいいよね。」
側で藤原と工藤がわらって見ていた。

「ねえ、おんぷちゃん…
 小竹の様子へんじゃない?
 いつも通りかとおもったら…優しかったり素直になったり…。
 調子がくるうよ。」
「どれみちゃんは小竹君が気になってしかたがないのね。」
「へ?!だれがぁっ!?」

俺が知らない間に
2人が話していた時
どれみがあわてて火の側にあとずさっていた。

「どれみ!」
「へ…きゃっ!!」

がしゃ~ん!!

一歩遅かった。
どれみは火をかけていたダッチオーブンを
ひっくり返して中身を出してしまった。

そこによろめいて
どれみが倒れそうだった。

「どれみ!!」
がしっ!

とっさに俺は
何も考えず片腕でどれみをうけとめた。
その反動でその腕がタッチオーブンの中身についてしまった。

じゅうっ!
「くあっ!!」
「小竹!!」
「まったくどじだな…
 お前は。」
「小竹それより…腕放して…。」
「いやだ!」

手が熱さで痛くてどれみを支えようと斜めになってふるえていた。
でも「いやだ。」と発した声が覇気となったのか根性でどれみを起こした。
その後ものすごく痛くて俺は半分倒れた。

「小竹くん…その腕!!」
ゆき先生が慌てて近寄る。
「あたしのせいで小竹が…小竹が…。」
「どれみちゃん、落ち着いて…。」
「小竹!」

どれみの声が遠くに聞こえる…。
俺は気を失っていった。

『小竹くん…』
「お前…月人!」
『どれみちゃん…もらうよ…』
「だめだ!なにするつもりだ!」
『あの桜と共に山で暮らす…
 誰にも邪魔されずに…』
「ダメだ!どれみは!!」
「はなちゃんだって許さないよ!!」
気がつくと俺の隣に巻機山が。

「へ?どうして…巻機山が…。」
「はなちゃん女王様になるからだからなんだってできるもん、えへん!」
「じょ、女王様?」
巻機山の言葉に意味がわからず俺は首をかしげた。

『…君に気づかれるとは…』
「どれみを…ママをさらったら…ハナちゃん許さないから!
 魔法でやっつけちゃうもんね!」
「と、とにかく俺だって…。」
『こんなにどれみちゃんは愛されてるのに…
 どうして寂しそうな顔をしているんだ…?」
「それは…。」

月人の言葉に巻機山が何もいいかえせない。

「…そんな顔させない…。
 巻機山や藤原、妹尾、瀬川、飛鳥が側にいなくても…
 俺がそばにいる。
 俺だけじゃなくて…美空中に行く美空小の6年生みんなが
 どれみの側にいる!」
『…そっか…でもどれみちゃん今日くるよ。
 どれみちゃんは僕が寂しいの…わかるから。』
「じゃあ、俺も行く。
 どれみだけじゃ、行かせない。」
「小竹…。」
「巻機山…お前にも事情があるんだろう?
 側にいられないわけが。
 しょうがないよな…。」
「うん、うん!
 小竹…どれみのこと…大事に想ってるんだね。」

巻機山の言葉に俺は真っ赤になった。

「え!?あ…えと…。」
しどろもどろになっている中
巻機山の手の中の何かが光った。

「あ…小竹…目覚める時間だよ。」
「え?」
「これは小竹の夢の中だから。
 えっと、そこの人もはやくでていかなくちゃ。」
『うん…わかってる…
 でも小竹くん…君はいらない…
 どれみちゃんだけいただくよ…』
「月人!!」

がばっ!!

「小竹!目が覚めた?」
「へ…?どじみ…?」
そこにはどれみの心配そうな顔が…
辺りをみまわすと誰もいない。
コテージの中だ。
2人っきり…しかも…起き上がったら
どれみの顔が近くて…
体温が一気に上昇して真っ赤になった。

「あたしをかばってやけどして…
 気をうしなっちゃったんだよ…
 ごめんね小竹…。」
「き、気にするなよ。
 これくらい。」
「ありがとう…。」
「それより…お前あの月人のところいくつもりか?」
「…わからない…。
 それより今夜は…きもだめしだよ。」
「あ…そっか。
 じゃあ、ペアのくじ引かなきゃ。」
「今、あたしたちのかわりにハナちゃんがくじ引いてるから。」
「巻機山が?
 お前いいのか?」
「それより…小竹が心配だったから。」

どれみがちょっと恥らいをもった顔をして
目をふせた。
か…かわいい…。
い、今の俺の前でそんな顔するなよ…。

「どれみ…。」
今なら言える。
そう決意してつばをごくんと飲み込む。
あいている片手をどれみの肩に置く。

「小竹?」
「どれみ…俺…。」

緊張する。
手が震えて…

ぐらっ…

「え?」
「あ?」

バランスをくずしてどれみの方に体が傾く。

どさっ…

どれみの上に俺が倒れそうになり片手をふんばった。
この体制は…!!

「小竹…?」
「いや、あの…これは…。」

「どれみ~!!くじひいてきたよ~!!」
巻機山が突然入ってきた。

「わっ!!」

その声に反応して急いで体を起こす。

「小竹起きたの?
 大丈夫?」
「あ…ああ。」

アレは夢だ。
巻機山が実際にわかってるわけじゃあない。
でもなんだか気まずくて巻機山の顔をまともにみれなかった。

「くじどうだった?ハナちゃん。」
「あのね、どれみと小竹がペアになったよ!」

にこっとわらって巻機山が答えた。

「え…?偶然だね。
 よろしくね、小竹。」
「あ、ああ。」
その様子に巻機山が意味ありげにさらに笑いを浮かべていた。


「みんなそろったか?
 じゃあ、順番にいくぞ。」

関先生がみんなを集め
きもだめしの諸注意をしていた。
その間に遠くをみつめていたどれみに
俺は話しかけた。

「お前いくつもりか?」
「え?」
「…なら俺も付き合う。」
「いいよ。小竹…怪我してるし。」
「俺が…行きたい。
 あいつが何を考えてるのか…。」
「…月人君はすごく寂しいんだよ。
 側にだれもいなくて…。」
「お前の側には…みんながいるんだ。
 卒業式でわかっただろ?
 だから…あいつについていくとかいうなよ?」
「そんなこと…
 ただお友達だから…。」
「あいつ…人間じゃないかもしれないぜ。」
「…わかってるよ。
 だから間違ったことしようとしてるなら
 友達として間違いを正してあげようと思って。」

その言葉に俺はびっくりした。

「じゃあ、なおさら不安になったりしないのかよ!」
「小竹にはわからないかもしれないけど…
 人間じゃなくても友達になれる。
 むずかしいかもしれないけど…
 わかりあえる。
 それってすごいことだとおもわない?」

どれみが俺よりも大人びた目をして
遠くを見ながらそういった。

「どれみ…。」
俺の知らない間で
どれみには色々あったのだろうか?
卒業式の行動についても
びっくりだったし…。
俺が思ってたどれみより
もっと深く単純じゃなかった。

だから…余計好きになった。
そのせいでまわりもどれみの魅力に気づいた。
本人は全く気づいていない。
誰にもないどれみだけの魅力。
でもそれを利用して
どれみの気持ちを無視して
自分だけのものにしようとする月人は許せない。
俺はそんな月人から
どれみを守らなきゃ。
たとえ人間じゃなくても恐れてる場合じゃない。

「じゃあ、俺もいく。ドジなお前のフォロー役が必要だろ?」
「小竹!フォローてなによ!!」
「ははは!その言葉のとおりだよ。」
「失礼だな!もう!」
「あははは!!」

「小竹、春風組。出発だぞ。」

関先生が真剣な顔をして俺たちをよんだ。

「「はい。」」

「気をつけてね。とくに小竹君は男の子だから…春風さんを守るのよ。」
ゆき先生が出掛ける時に心配そうにいう。
「は、はい。じゃ、いってきます。」

「この地図のここから…桜の木にいけるみたいだが…。」
関先生からもらった地図をたよりにコース通りに歩く。地図をひろげためらいがちにちらっとどれみの顔をみながらいう。どれみは真剣な顔をして地図をみていた。

「じゃあ、行こう。桜の木まで。」
「ああ。」
コースから1歩外の森へ足を踏み入れた。

「暗いから…はぐれないように…って意味で…。」
俺はテレながらどれみの手をつかんだ。
「あ、うん。」
懐中電灯の明かり以外に何もない暗い森の中2人で歩いた。桜の木を目指して。


「はっ…。」
「ゆ、ゆき先生?どうしたの?
 次ハナちゃんたちの番だけど…。」
「どれみちゃんに何か起こるかも…。」
「あの…桜の木の男の子のこと?」
「ええ。ハナちゃんみたのね。」
「ハナちゃん、小竹君が心配で
 小竹君の夢の中入って行ったの。
 そしたらその中にいたの。」
「…そう。」
「助けに行った方がいいですか?」
「いいえ。ハナちゃん、魔法はだめですよ。」
「でも!」
「どれみちゃんなら…魔法なしでもなんとかしますよ。
 信じて待つことも大事ですよ。」
「…はい。」
「もし…なにかあるようなら…
 わたしがなんとかします。
 女王になるハナちゃんには
 人間界で魔法をつかわないようにしなきゃ。」
「女王様…。」


満月のよく出ている。
その月の方向に俺とどれみは歩いていった。

「桜のにおい。
 もうすぐだ…。」
「どじみ…離れるなよ。」
「うん。」

ざあっ…!!

桜の花びらが俺たちを覆いつくした。
「うわっ!」
「きゃっ!」
『どれみ…おいで…』

つないでいた手がぐっとひっぱられる。
でも俺は手を離さなかった。

「月人君!
 あたしたち友達だよね?
 ならどうしてこんなことするの?」
『どれみは小竹君のそばにいても
 寂しい顔してるじゃない。
 だから僕が君をさみしくさせない…ずっとそばにいる。」
「あたしは…
 そんなことをする月人君やだよ…。
 そんな月人君のそばにいたらもっとかなしいよ!!」

ざっ…

舞っていた桜の花びらがふわっと地面に落ちた。
満月と桜の木が不気味なほど綺麗で
そこに白い振袖のような着物をきた桜山月人がいた。

『どれみ僕がきらいなの…?』
「…自分勝手な理由で人を傷つける月人君は嫌い。」
『だってどれみは…』
「たしかにあたしは…寂しい。
 はづきちゃんとおんぷちゃんは学校わかれちゃうし
 あいちゃんは大阪に、ももちゃんはアメリカにいっちゃう。
 …ハナちゃんも遠くにいっちゃう…
 みんなみんなあたしから離れていく…。
 でも…小竹や…美空小の他のみんなが一緒にいてくれる。
 あたしは…ひとりじゃない。
 あたしも月人君と同じ…自分勝手だったの。」
「どじみ…。」

「だから…寂しくないよ。
 いつもみんなと一緒だもん…。」

どれみは本当に幸せそうな笑顔を浮かべた。

どきん…

どれみのその笑顔は今までのどのどれみよりも
好きな…顔になった。

『そっか…どれみは寂しくないんだね。』
「うん。」
『わかった。
 ごめんね、どれみ…。』
「うん…でもね、あたし達友達だよ。
 だから…桜の時期には会いに行くよ。
 桜の木である…あなたに…。」

さあっ…
桜がざわめく。

『そっかあ…僕のことわかっていたんだね。』
「うん。」
『君はすごいね…
 じゃあ、みていって。
 今年最後の桜を。』

ふわっ…

また目の前の桜が舞っていった。
目をあけた。
そこには。
先ほどよりも
月に照らされきれいな桜が咲いていた。

「月人君…
 ごめんね。
 ありがとう。あたしと友達になってくれて。」

さらさらと舞う桜の花びらの音に
どれみは言葉を送った。
 

「みんな心配してるから…行こう。」
俺は桜の木を見上げたままのどれみに言った。

「小竹…あたし…せめて今日まで
 月人君のそばにいてあげたい。」
「だめだ!
 みんな心配している。
 戻るぞ。」
「じゃあ、小竹だけもどって…。」
「お前一人にしておけるわけないだろ!
 …そんなに言うなら…
 俺もいる。」
「え…?」
「女をおいて帰ったなんて男がすたる!」
俺は勢いでそういった。

くすっ…

「ぷ…あははは!
 小竹らしい…あははは!」
「わ、笑うなよ!」
「だって…この旅行はじまってからずっと変だったじゃん!
 具合悪いのかと思っちゃったよ。」
「俺…そんな変だったか?」
俺っていつもどんな風にどれみに思われてたんだ?
すごく気になった。

「うん…でも小竹も大人になったのかな?
 って思った。
 優しいのは前からだけど…
 もっと優しくなったかな?」
そのどれみの言葉に俺は何よりも真っ赤になっていた。

「あれ?小竹…もしかして照れてる?」
「う、うるさい!
 それよりも早く寝ろよ。
 明日朝早く起きてもどるぞ。
 みんな心配しているからな。」
「小竹…優しいね…。
 ありがとう。」
俺の言葉にどれみがふっとわらってそういった。

「ちがう…。」

とっさにそういっていた。
頭の中は真っ白。
俺なにいってるんだ?

「俺は…お前に優しくしたのは自分のためだった。」

あれ?俺…なんですらすらと…
思ってることが口からこぼれおちる。
でも頭ではこんなこというはずないのにって考えている。
それなのに今まで伝えたくてもつたえられない言葉が
あとからあとから零れ落ちる。
それは桜の花びらのようだった。

「え…?どういうことなの?
 小竹…。」

どれみは不思議そうな顔をする。

「覚えているか?
 卒業式で俺が行ったこと。
 あれは…みんながって意味でいったけど…
 本当は…俺の…俺だけの言葉だったんだ。
 俺は…お前のことが…。」

もうココまでいってしまった。
恥ずかしい。いいたくないけど…
いいたい!
桜の花びらが舞っている。
まるで俺を後押しするように。

「俺はお前のことが…大好きなんだよ!!」

「小竹…。」

ふわふわと桜の花びらが俺たちをつつむ。
俺はただどれみを見つめていた。
どれみは最初とまっていた。
びっくりしていたからだろうか?
それから次第に
顔が赤くなっていった。
そんなどれみの様子に
俺も顔がさらに真っ赤になっていた。

「えっとそれは…本当?」
「ど、どじみ!!」
「冗談とかじゃ、ないよね…?」
「!!
 ここまで言ったのに…
 なんで気づかないんだよ…
 俺は…幼稚園の時からずっと…ずっとお前を見てたんだ。」

どれみの言葉に俺は怒った。
とまらないくらいに。

「気づけよ、馬鹿!!」

俺はもう恥ずかしさでその場にいられなくなった。

だっ!!

走ってその場から去る。

ぐらっ…

「え?」

真っ暗で見えなかったがそこは…
がけになっていた。

「うわぁ!」
「小竹!」

ガシっ!

俺の脚をどれみがつかむ。

「俺にかまうなよ…
 お前まで落ちて…。」
「か、勝手におこってなんなのさ!
 まだあたしは何もいってないのに!」
「いいから、離せ!」
「いやだっ!!」

ぐらぁ!!

「え?」

どれみの体もぐらつく。

「「ああああああ!!!」」

2人で深くて暗い中に落ちていった。
 

「った…ここは…。」

気がつくと俺は生きていた。

ふわっ…

桜の花びらが舞う。
桜の木のおかげで
地面に激突せずにすんだらしい。

起き上がると体に重みが…
さらっと長い髪これは…

「どじみ…!!」

どれみが俺の体にしがみついて
気を失っていた。
髪の毛は木の枝にひっかかったせいか
リボンがとれ下ろされた状態。

正直に言うと…かわいい。
しかも…こんなにべったりと…

ドキドキして何も出来なくなってしまう。
顔をふりとりあえず現実にもどることにした。

「地図もおとしちまったし…
 ここは…?
 とりあえずここから降りよう。」

どれみをとりあえず背中におぶって
木からおりる。
地に足がついてやっと落ち着いた。

「さてこれから…どうするか…。」
「う…ん…こたけ…。」
「どれみ起きたか?」
「すー…。」
「な、なんだ寝言かよ…。
 ったく…
 これじゃあ、朝になるまで動かない方がいいなぁ…。」

とりあえず起こさないように
そおっと桜の木の根元にどれみをおろす。

「ちょっと様子見にいこう…っと…。」

側を離れようとすると
服がくんとひっぱられた。
よくみると
どれみがねぼけて俺の服をつかんで離さなかった。

「ま、まいった…どうしようか…。」

あたりを見回すと
ちょうどいいタオルが一枚あった。

「これどれみにかけよう。」

そのタオルをどれみのところにぱさっとかけた。
すると

がしっ

「え?ちょっ…どれみ…。」
「すー…。」

俺をつかんで隣にもっていった。
しかもそのあとぐっとつかんで離さない。

「どれみは寝相悪いな…。
 しかもこれじゃあ、俺うごけないだろ…?」
「すー…。」
「マジで寝てるのかよ…ったくこっちの身にもなれよ…。」

どれみは俺の言葉を寝ていてきかない。
俺は告白したばっかりなのに…
こいつは何考えてるんだ?
すごく成長したって思うとこもあるけど
相変わらずって思うとこもある。

どれみの顔がこんなに近い…
俺はもうどきどきしてどうしていいかわからなかった。

「小竹…。」

どきん!!

どれみのその言葉に
頭が真っ白になった。

体が…顔が…どれみに近づいていく。
どれみの唇に吸い寄せられていく。
だめだ!
どれみにはまだ何も聞いてないのに…

「う…ん…」

どれみが目を覚ましそうだった。
ぎくっ
やばい…
そう思って離れようとした時だった。

ふわっ…

「え…!!」

寝ぼけてどれみの方から
なんと…
キスしてきた…
な、こんなことって…
暖かい、やわらかい唇…
こんなことがあるなんて…

「ど、どれみ…。」
「ん…小竹…?」

あ!
どれみが目を覚ました。

ドキドキ

や、やばい…
ここは謝った方がいいのか…?

「小竹無事だったんだ…よかった…。」
「へ?」
「だって崖から落ちて…
 もうだめかと思ったんだもん…。」

どれみはそのとたんに泣き出した。
か、かわいい…
おもわず抱きしめたくなってしまう衝動に駆られる
でも…
ぐっとこらえて…

「お、俺は平気。
 それよりお前の方大丈夫か?
 お前…寝ちまって起きないから…。」
「あ…じゃあ、なんで一緒に…」
「!!そ、それはお前が俺を離さなくて…
 し、し、仕方なく…別に何も…。」
俺がしどろもどろになって
言い訳していると…
どれみはこういった。

「うそつき。変なことしようとしてたくせに。」
「お、お、お前!!
 起きてたのか!?」

ってことは…
さっきのキスは…?

「意識はあったけど…
 体が動かなくて…
 小竹があたしにぶつぶつ文句言ってるところとか…
 何かしようとしてるのとか…わかっちゃって。
 でも…何もしないから…
 本当にあたしのこと好きなのかな?って…。」
「ば、馬鹿!!
 き、気がないくせに…
 そ、そんなこと…
 今の俺にそういうことするなよ!
 …期待…しちゃうだろうが…。」

俺は本気で怒っていた。
なんなんだよ、どれみは。
どういうつもりで…今の俺にそんなこと…。

「今まで気がつかなくてごめんね…
 あのね…あたし…
 小竹のこと…そういう風に考えたことなかったんだけど…
 この旅行で気づいたの。
 というか…さっきかな?
 小竹がキスしようとしてたとき
 すごくドキドキして…
 なん受け入れようとしてたんだけど…
 途中でやめちゃったから…なんなの?って…
 それで気がついたら…あたしが…。」
「どれみ…。」

どれみは顔を赤くしてもじもじしながらいう。
その様子を俺はドキドキしながらみていた。
つまり…どういうことなんだよ…。
言ってくれよ…はっきりした言葉を…。

「あたしも…小竹が好き…。」

小さな声を俺は聞き逃さず聞いた。
言ったとたんどれみは真っ赤になって下をむいた。
俺はそんなどれみを
こんどこそぎゅっと抱きしめた。

「やっと気がついたか…遅えよ!
 全く鈍感なところは変わらないな。」
「小竹…今日は大変だったね…
 ありがとう、ごめんね。」
「別に…やっと聞きたかった言葉
 手に入れたからいい…。
 それより…どうやって帰るか…。」
「地図…ないんだよね…。」

どうやって帰ろうか…
途方にくれている時だった。

「小竹~!春風~!」
「小竹君~!春風さん~!」

「あ!関先生とゆき先生の声だ!」
「お~い!!関先生!ゆき先生!
 こっち~!!」

「あ、お前たち!!」
懐中電灯のライトがぱっとこちらに向いた!
「お前たち怪我はないか?」
「崖からおちたけど…
 桜の木がかばってくれたんだ。
 ほら!」

さわさわ…

花びらが揺れて舞っていた。

「こんなところにこんなりっぱな桜の木があったなんて…。
 よくみつけたな、お前たち。
 だが、コース通り歩いていればこんなことにはならなかった。
 みんな心配しているぞ。」
「ご、ごめんなさい。
 あたしが桜の木をみたいっていったから、
 小竹は心配でつきあってくれただけで…。」
「いや、俺がちゃんととめてれば…。」
「まあ、無事でよかった。
 小竹、お前はよくやった。
 春風をいつもかばって…
 いい男になったな。」
「関先生…。」

俺は関先生にいわれてすごく照れていた。

「ここには…
 むかし結核の療養所があったんですって。
 そこに桜の木が大好きな少年がいて…
 亡くなった時に彼の遺言で桜の木の根元に
 骨がまかれたそうよ。
 彼は12歳。
 ちょうどあなたたちと同じ年ね。
 結核の療養所は壊されたけど
 桜の木はあまりに美しくてだれも切れなかったそうよ。」

ゆき先生が桜の木にまつわる話をしてくれた。
その少年こそが月人だったのかもしれない。
けど俺たちは先生たちにいわなかった。
これは…俺たちだけの秘密だから。

やっとのことで戻った時
朝日が差し込んでいた。

「心配したよ~!!
 どれみ!!小竹君!!」

みんなが起きてまっていたのだ。
巻機山は半泣きでどれみのそばによった。

「ハナちゃん、みんな…
 心配かけてごめんね…。」
「もう~これで2回目だよ。」
「え?」
「2人がいなくなったのは。
 全く仲がいいよね~。」

そうみんながからかいはじめて
俺たちは真っ赤になってうつむいてしまった。

「その様子って…
 もしかして…どれみちゃんきづいたの?」

瀬川が俺たちの様子をすぐにさっして
そういった。

「え…きづいたってみんな…知ってたの?」
「当然だってば!」
「あんなにはっきりいってるじゃん。」
「小竹よかったね!
 やっと気づいてもらえて…。」

みんなが口々にどれみに返答をかえした。

「あ、あたしだけだったなんて…。」
「でもよく気づいたわね。」
「色々あったの?」

みんなが口々にそう聞く中
新SOSトリオがこういった。

「もしかして、もしかして?」
「ちゅーちゅーってしちゃったの?」
「それをいうならキスでんがな!」

「「え?!」」

その言葉に俺たちは
この世のどんな赤いものよりも
赤くなったに違いない。

「え~!!!!どういうこと~!!!?」

みんなの言葉に

「に、逃げろ!」
「うん!」

手をとってその場を逃げた。


最後の日
俺たちは桜の木にきた。
今度はゆき先生と一緒に。
どれみがリボンを桜の木にむすんでこういった。

「また小竹とここにくるよ。」

そのどれみの言葉に
答えるように桜がざわめく。

この桜がなかったら
俺は告白できなかったかも。
また一緒にこれないかもしれない。
俺は心の中で桜の木に
ありがとうといった。

あれから毎年。
自転車で二人乗りで
その桜に会いに俺たちは行った。

そしてそれからしばらくたって
そこで俺たちが指輪を交わすのは…
また別の話。

THE END